ひろしまの遺跡 第88号

遺跡ピックアップ
寺尾遺跡で銅製錬の炉跡を確認


遺構配置図


上部構造をもつ製錬炉

一列に並ぶ焙焼炉群
 
 寺尾遺跡は,山県郡加計町加計に所在する非鉄金属関係の製錬が営まれていた生産遺跡です。遺跡は,町の中心から南東に2kmほど入った,標高約550mの山中にあります。調査の結果,炉跡,鉱滓捨て場,排水施設,石垣などが検出されました。そのうち炉跡については,鉱石から硫黄分を除去するための焙焼炉と,それを溶解・製錬するための製錬炉の2種類が確認されました。
 製錬炉は,上段平坦面南側の吹屋(金属を製錬したりする工場)跡と想定される整地面から8基が検出され,形状は直径30〜50cm,深さ10〜20cmほどの鉢形をしていました。また,下段平坦面からは上部構造が一部遺存する製錬炉も検出されました。
 焙焼炉は,調査区北側の西斜面上から等高線に沿ってほぼ一列に並ぶ状態で13基が確認され,規模は直径60〜80cm,深さ40cmほどでした。

調査区全景

吹屋跡と推定される平坦面
 
 鉱石を製錬したときにできる鉱滓(カラミ)は,主に塊状,板状のものが出土しました。塊状のなかには炉壁や炭が付着しているもの,また,板状のなかには復元すると直径が約20〜30cmの円形になる厚さ約1cmの有縁のものが多く含まれており,使用した炉の規模との関連がうかがわれます。
 遺跡周辺の地には,「寺尾銀山」の名が伝承として残っていました。調査の結果,江戸時代前半期の主に銅製錬に使用された2種類の炉跡を確認することはできましたが,銀製錬については明らかになりませんでした。
 しかし,今回の調査により焙焼炉や製錬炉の構造,使用法が明らかになってきたことは大きな成果といえます。とりわけ上部構造を伴う製錬炉については,近世期の炉跡としての調査例も少なく興味深いものがあります。今後,鉱滓等の分析と考察,また,周辺の製錬施設等との関連を検討するなかで,寺尾遺跡の位置付けがより明確になっていくものと考えられます。
(松崎 哲・恵谷泰典)


塊状の鉱滓

板状の鉱滓

出土した鉱石



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