ひろしまの遺跡 第84号


 皆さんは発掘調査中の現場に行かれたことがありますか?見学するチャンスはなかなか少ないと思います。
 調査現地では,私たちがどんな作業をしていると思いますか?テレビニュースや新聞に載っている写真をみると土器を掘り出しているところや,実測をしている作業風景が写っていることが多いような気がします。
 私たちが行っている遺跡の調査は,記録保存といわれる調査で,調査が終われば遺跡は無くなってしまうケースが多いのです。後戻りが出来ないため,細心の注意を払いながら,住居跡や古墳など遺構の詳細な実測図面や写真,文字による記録(調査の経過など)をとった後に調査報告書を作成します。報告書の中には写真も掲載されています。
 発掘調査では実測と同じように写真撮影も行っています。意外にも写真撮影も調査では重要な作業であることをご存知の方は少ないのでは。
 今から写真と実測図面の役割を比べてみましょう。まず,発掘現場から,
 1.は住居跡から出土した遺物の出土状況の実測図です。土器がたくさん出土しているようすが分かりますね。また,どこからどの土器が出てきたか分かるように図面も上からみた図,横からみた図など工夫をして情報を伝えています。
 つづいて2.は同じ住居跡を図面の左下方向から右上を撮った写真です。1.の図面と比べてどうですか。何となく立体感を感じませんか。もし,あなたがこの住居跡の遺物出土状況を人に説明をするとしたら1.の図面と2.の写真のどちらを使いますか。たぶん2.の写真を使った方が簡単なような気がしますね。
 このように写真は1枚で語ることが可能な記録方法といえます。
 さて次は遺物の番です。写真撮影は発掘現場だけではありません。出土した遺物は調査から帰ると,復元されてもとの形に戻ります。そこで,製作技法や文様のつけ方などの観察や原寸大の実測図が描かれます。実測図は約束事があって,完形品であれば右側に断面と内側を,左側に外側の文様や形を図示しています。土器の情報としては50%です。そして,写真撮影が行われて,報告書で実測図とともにそのプロフィールが紹介されます。
 では,3.の装飾付須恵器をみてみましょう。壺の肩部には犬や人物・子壺が貼り付けられています。真横からみた図と上からみた図です。みえない部分は色を変えて表現してあります。
 4.は人物を中心にして,やや上から撮影した写真です。この違いは先に紹介した住居跡の写真と同じく一目瞭然ですね。
 このように,写真は図面では表現出来ない立体感や色あい,文様など文字を使わず伝えることができます。写真撮影も図面実測と同じ,或いは,それ以上に大事な作業です。
 最後に,大正11年に発刊された『通論考古学』という考古学の基礎的な本の中で著者の浜田耕作先生は,「考古学の調査は文書による記録を主とし,その足りない所を写真や図面で補うのではなく,写真や図面で足りない所を文字で補足する態度を取るべき」と説かれています。
 もし,皆さんが発掘現場を通りかかった時,高い足場の上で三脚にカメラを載せ,うらめしそうに空をみている調査員がいれば心のなかで応援してください。
(山田 繁樹)
1.浅谷山B地点遺跡(庄原市)SB2

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3.田上第2号古墳(福山市)出土 装飾須恵器

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