ひろしまの遺跡 第83号


 いよいよ"21世紀"が現実味を帯びてきた今日この頃,みなさまいかがお過ごしでしょうか?
今回のアラカルトは,21世紀の考古学者のために(独断と偏見で)厳選した本を紹介していきたいと思います。

 「考古学は過去人類の物質的遺物(に依り人類の過去)を研究するの学なり」(浜田耕作『通論考古学』1922)という考古学の定義と,考古学研究の基本ともいえる"形式学的研究法"について書かれた(O・モンテリウス『考古学研究法』浜田耕作 訳1923)2冊は非常に難解な本ですが,考古学を目指すならば,必読の本といえるでしょう。(2冊とも雄山閣出版から復刻)
 また,「考古学は補助学といった貧相なものではなく,歴史学の源泉ともいうべきもの」(V・G・チャイルド『考古学とは何か』近藤義郎・木村祀子 訳 岩波書店 1969)で,「考古学の記録を構成するものは化石になった各種の人間行動であるが,できるかぎりその行動を復原しそこに示された思想を再現することが,考古学者の仕事となる」(『考古学の方法』近藤義郎訳 河出書房 1964)と,考古学に対する姿勢を教えてくれるものも読んでおきましょう。
 これらは古い本なので,古本屋さんで初版本を探し出すというのもおもしろいかもしれません。
 難しい本はちょっと・・・というあなたには,浜田(青陵)耕作『考古学入門』(講談社学術文庫 1976),森浩一『考古学入門』(保育者カラーブックス 1976)や末永雅雄『きみたちの考古学』(有斐閣 1986)などがあります。
 もう少しつっこんだものでは,大塚初重・戸沢充則・佐原真 編『(新版)日本考古学を学ぶ』全3巻(有斐閣選書 1978),坂詰秀一・森郁夫 編『日本歴史考古学を学ぶ』全2巻(有斐閣選書 1983)などがお薦めです。また,ニュー・サイエンス社の『考古学ライブラリー』シリーズや東京美術『考古学シリーズ』が,テーマ毎に分冊されており,研究のきっかけになるでしょう。
 『岩波講座日本考古学』全9巻(岩波書店 1985)は,是非,本棚に飾っておきたい逸品です。そこにあるだけで,目次を見るだけで勉強した気になれます。
 やはり,"考古学史"もはずせません。斎藤忠『年表でみる日本の発掘・発見史』全2冊(NHKブックス 1982)。
 (近代科学的)日本考古学の発祥は,エドワード・S・モースによる大森貝塚の発掘(1877)だと言われています。モースは,発掘によって得られた資料の「類例を求め対比をおこない理解し解釈しようとする態度を,執拗かつ全面的に展開した」(E・S・モース『大森貝塚』近藤義郎・佐原真 編訳 岩波文庫1983)非常に精度の高い報告書を作りました。現在,私たちが発掘調査報告書と呼んでいるものは,この本が原点と言えるかも知れません。
 岩波文庫つながりで,形式学の原点,自然選択と適者生存の事実から"進化論"を確立したC・ダーウィン『種の起源』全2巻(八杉龍一 訳 岩波文庫1990改版)はいかがでしょうか。
 一方,文明の意味,歴史的時間の偶然的性格などについて述べたC・レヴィ=ストローク『人種と歴史』(荒川幾男 訳 みすず書房 1970)は,師匠に贈られ(泣きながら読んだ)思い出深い本です。
 但し,これらは初版の古さが否めない。
 鈴木公雄『考古学入門』(東京大学出版会1988)や『考古学がわかる事典』(日本実業出版社1997)は,教材がベースになっています。また,考古学の"これから"と"役割"にもふれているので,奥が深い。
 安蒜政雄編『考古学キーワード』(有斐閣双書1997)は,見開き2ページでまとめてあるので,あいた時間などにさらりと読め,関連する項目が示してあり,知識を深めることができます。
 AERA Mook『考古学がわかる。』(朝日新聞社1997)は,けっこーいいかも。
 山岸良二『入門者のための考古学教室』(同成社1998)は,講座の教材のように,6回で完結する。巻末に「入手しやすい主な参考文献一覧」などがあって,便利でしょう。

 パソコンやインターネット(iモード)などが普及した今,デジタルメディアでかなりの情報を引き出せます。これらは,上手に使えば非常に強い味方になるのも事実でしょう。
 このようなハイテク主流時代に,あえて紙媒体というローテクを紹介するのは,活字離れの進む(自分と)現代への反省からです。
 "どんなに優れた技術でも母親の読み聞かせる絵本にはかなわない"ように,五官で感じることのすばらしさを再認識する必要があるでしょう。
 紙の白さ,インクの匂い,ページをめくる音,本の重さに比べれば,電磁波の渦のなかに響くクリックの音が空しく聞こえませんか?

というわけで最後に,ボクの"考古学への美学(こだわり)"の原点である2冊を紹介して終わりにします。
 小林行雄『古墳時代の研究』(青木書店 1961)序から。
 「古代がわれわれに遺した物を手がかりにして,古代の実体にせまろうとするのが,考古学であるが,‥(中略)‥もちろん,実証的な研究は必要であり,それが考古学の基盤でもあるが,真の考古学は実証の上に立つ推理の学であるべきである。」
 藤森栄一『かもしかみち』(学生社1967)とびらから。
 深山の奥には今も野獣たちの歩む人知れぬ路がある。
 ただひたすらに高きへ高きへとそれは人々の知らぬけわしい路である。
 私の考古学の仕事はちょうどそうしたかもしかみちにも似ている。
 (立川 敏之)