ひろしまの遺跡 第95号

考古学アラカルト33

ひろしまの線刻絵画土器(上)
 弥生時代の遺跡から出土する遺物の中に銅鐸以外にも土器や土製品などに絵が描かれている場合があります。これらは,ヘラ状工具の先を使って描かれていることから線刻画と呼ばれています。その題材はシカ・建物・鳥・人物・龍・船・魚・イノシシ・不明動物などで,銅鐸に描いてある題材と共通性があります。ただ,銅鐸にはトンボやカマキリ,トカゲ・カエル・カメ・クモ・イヌ・ヘビ・カニなどの昆虫や小動物が描かれています。銅鐸に描かれた題材は,農業,特に水稲耕作にかかわるものが選ばれていることから,豊かな収穫による安定した生活を祈る「マツリ」に使用されたと考えられています。

 弥生土器や土製品に描かれた絵画は,これまでに弥生時代の全期間を通じて全国で350点以上が確認されています。数が最も多い近畿地方(約65%)を中心として,関東地方から九州までの地域で出土しています。時期的には中期後半のものが約60%を占めています。題材はシカが圧倒的に多く(約50%),次いで建物(約20%)・鳥(約12%)・人物(約10%)でほとんどを占めています。描かれている器は壺・甕・高杯・鉢・器台などがありますが,貯蔵を目的につくられた壺が圧倒的に多いのが特徴的です。これらの絵画土器は特別な意味が与えられたものと思われ,銅鐸を使った「マツリ」とは違った場面での「マツリ」に関わって使用された可能性が考えられています。

 広島県ではこれまでに8遺跡9例が報告されています。題材にはシカ・建物・人物などがあります。題材的にはシカが4例と多く,人物・建物と続いています。
出土した遺跡の位置や時期,描かれた器の種類は表や図のとおりです。9例の内,A・E・FのシカとBの人物ははっきりとわかりますが,@は中央がシカで矢が上部から飛んできているところ,Cは建物を描いていた一部,Fの毛虫のような表現は頭に羽をつけた人物(鳥装)をデフォルメしたものであることが指摘されています。Dは器台の脚柱に描かれいる抽象的な文様で具体的な表現の絵画でなく意味は不明です。Gについては,船・魚+うなぎ・へびなどが考えられていますが,はっきりとわかっていません。

 これらの線刻絵画土器は時期的には中期と後期がほぼ同数で,出土した地域が平林遺跡以外は全て備後地方に集中していることが特徴的です。また,題材が不明確なGの土森遺跡出土の絵画については,次回で考えてみたいと思います。
(山田繁樹)
広島県内出土の線刻絵画土器 図
 
広島県出土弥生時代線刻絵画土器一覧表
  遺跡名 所在地 遺構 時期 器種 内容
1 平林遺跡 広島市安芸区温品 表採 後期? 壺? シカ・矢
2 地蔵堂遺跡 福山市駅家町 住居跡 中期末〜後期 壺? シカ
3 渡瀬遺跡 深安郡神辺町 後期 人物
4-1 亀山遺跡 深安郡神辺町 土抗 後期 建物
4-2 亀山遺跡 深安郡神辺町 土抗 後期 一部分のため不明
5 御領遺跡 深安郡神辺町 住居跡 後期 器台 直弧文風渦巻き文
6 新迫南遺跡 安芸高田市高宮町 中期末 シカ・三叉・矢
7 矢原遺跡 三次市三和町 中期末 注口付器台 シカ・人物
8 土森遺跡 三次市三良坂町 中期後半 船?・ウナギ?
 
参考文献
『弥生人の鳥獣戯画』香芝市二上山博物館編 雄山閣 1996年
加藤光臣『弥生の「祭りと信仰」の一風景』みよし地方史 第45号 三次地方史研究会 1997年
『灰塚ダム建設に伴う埋蔵文化財発掘調査報告書(XU)―土森遺跡の調査―』(財)広島県埋蔵文化財調査センター 2003年